小津監督の映画を久々に観たが、映像から伝わる、人々の品性や、簡素ながら機微に富む情緒のやり取りが、とても素晴らしく、ラストの笠智衆の寂しげな姿には涙がこみ上げてきた。
恬淡な台詞回しが独特だが、きっと当時の日本ではこうした気質の人々がいて、さっぱりとした上質の人間関係が、そこかしこで交わされていたのだろう。もっと他の作品も観てみたい。
劇中、一度も秋刀魚が登場しないのに、題は秋刀魚の味。ふとその味を思い起こしてみて、あまりにも映画の空気感にぴったりなことに驚嘆を覚えた。これこそ芸術なのだ!小津監督の遺作。真の芸術家の真髄を観たように思う。